『TENET テネット』

以下ネタバレ有りの感想

 

 

 

 賛否両論とは聞いていたが、見てそれも当然だな、と納得。むしろ否の方が多くてもおかしくない。どう考えても家族や恋人と一緒に見る映画ではない。見た後の気まずさは想像に難くない。

 

 何かの記事でノーランがマイケル・ベイが好きというのを知ったが、今作を見てリップサービスとかでなくマジだったのか……となった。もはやストーリーで引っ張ろうとせず、ただ自分の作り上げたい構造になるようにつなぎ合わせてるだけ。完全にハリウッドの娯楽映画として崩壊しているのだが、崩壊していることを全く隠そうともしない。この感じがものすごくベイ感。ザック・スナイダーとは違う。ものすごくマイケル・ベイなんだよ。

 

 「難しい」とか「分かりにくい」という評判を聞いたときは、時間の逆行設定のことかと思っていたが、見てみるとストーリー自体、今何のために何をしているのかがめちゃくちゃ分かりにくい。プルトニウム241からアルゴリズムのくだりは本当見ていて「はぁ?」ってなった。劇場にいた客全員がポカーンとしたと思う。実は何々だった!というつもりなんだろうが、プルトニウム241がそもそも何なのかよく分かっていない観客は驚きようがない。急に新たな情報が入ってきてその整理にまた混乱させられる。

 これにさらに逆行の設定を踏まえなければならないから、もう途中で理解しようとすること自体諦め、ただスクリーンに映る映像を何も考えずに眺め続けていた。まあ、でも一応ストーリーは、最後に相棒ポジションのニールがカイル・リースで主人公がジョン・コナーだったという種明かしにはグッと来た。(余談だが、ニールがキャットの息子マックス説を聞いて、それぐらいの円環構造がないと二人の関係性に説明がつきづらいので、納得してしまった)

 ただ、途中で置いてけぼり状態になったが、映像の快楽で最後まで集中して見れた。逆行世界のシーンは、現実だが現実ではない感じで自分の感覚がグアングアン揺らされた。よくよく考えると逆回しになっているのだけだが、見ているときは音楽の力と合わさってとにかく気持ちいい。というか、それで引っ張ることに全振りしてる。ベイ映画の爆発=逆行シーン。もっと逆行を見せてくれ~!てなってた。人の集団が後ろ向きに歩いているだけなのになぜかテンションが上がる。

 その盛り上がりに音楽の貢献度が本当大きい。ドルビーシネマで見たが、エキスポシティのIMAXかと思うくらい低音ビリビリの爆音だった。今回はハンス・ジマーじゃないのが功を奏した。ジマーっぽいが、ジマーじゃないのがより今までのノーラン映画にない雰囲気を相乗して出せていた。音楽を聞くだけでも気分がよくなる。

 

 この映画における逆行の設定だが、これをゲームとしてプレイすれば一回目でもっと素直に飲み込めたと思う。ここはこの映画独自の設定なんだなというところが理解しやすかったはず。この差異の分かりにくさが、見ていて混乱したポイントだった。

 一応物理学として逆行の理屈の説明されたが、まさかエントロピーが減少しているだけで終わるとは思ってもなかった。逆行の理屈に裏とか特になかった。パラレルワールドもなくただ今この瞬間が一つの道。起きてしまったものは仕方なく、最後に修正したものが勝ちということか。

 ノーランの映画って『インセプション』とかもそうだが、構造に固執するせいでゲーム向きの設定を編み出してくる。逆行世界とか自分がプレイヤーとして操作したらすごい楽しそう。扉が開いて主人公が外に出るとき、ゲームのステージに出て行く感じだった。後、逆行で元に戻った建物をRPGを打ち込んで破壊するところはマジでゲームでやりたい。あの瞬間の興奮がゲームやっているときの脳汁ブシャーの感覚に近かった。


 話も設定も無茶苦茶すぎる映画なので、こんなにスタッフやキャスト、そして翻訳家にお疲れ様と言いたくなる映画はない。監督のエゴにみんなよく耐えたと賛辞を送りたくなる。とくに翻訳の大変さを想像するだけで頭が痛くなる。吹き替え版が用意できなかったのも当然だ。字幕だけでも翻訳の負担がデカすぎる。

 その翻訳だが、逆行弾という訳が厨二感全開で好き。SF用語をちゃんと格好よく訳してくれてよかった。「時間の前と後ろで挟撃作戦だ」とか、意味がよく分からないがなんか格好いいという感じが伝わる。タイムトラベルを逆行と順行と言い換えるだけで、ここまでハードコアSF感が出るとは。


 元ネタというのか見ていて思い出した映像作品は、エリザベス・デビッキが出てた『ナイト・マネジャー』がそのまますぎない?と思った。役柄がほぼ同じ。『デジャブ』も思い出したが、デンゼル・ワシントンの息子を主役として出すって。割と率直にゲロッている。そのまますぎるだろと突っ込みたくなる。


 今まで以上に分かりにくいノーラン映画だったが、暴力描写もここ最近のノーラン映画と違うのが印象に残った。『インソムニア』に近い感じ。最近の映画と比べると陰湿な印象を受けた。ゴア描写がなくとも心理的に嫌な気持ちにさせるというか。こういう感じを本人も作風として捨てるつもりはなかったのかと驚く。『ダンケルク』でこういった描写を避けていたからね。

 『メメント』における痰吐きとかもそうだが、陰湿な嫌がらせを撮れる人であることを思い出す。本人の性質はインタビューやらまわりの評価から考えると善人さが際立っていて驚くけど。こういう描写は他の大作監督にはないものでは?と思う。この部分をもっと全開にしたものが見てみたいなと思った。

 

 グチグチ言いながらなんだかんだと楽しめたことは楽しめたが、しかし、これに予算2億ドルって正気か!ってなる。ノーランのブランド力がないと絶対に通らない企画。興行収入は今回はコロナのせいにできるけど、次もこんなのだと赤字確定だろう。ベイのように配信に行かざるを得ないはず。本人はそれを断固として嫌がるだろうから、一回IMAXフィルムを使用しない低予算映画を撮ったほうがいい。

 コロナのこともあるから今後こういった世界中をロケで回る大作映画は撮れないだろうし、その機会が作りやすいはず。まわりが何とか説得しないと本当にマズいと思う。今作は作家性の大暴走すぎる。このまま突っ走り続けられたら、自分は正直もうついて行けないので、誰か何とかしてくれ~と祈るほかない。

 

 この映画を勧められるのは、作家性が暴走してやりたい放題している映画が好きな人じゃないとできない。後、マイケル・ベイが好きな人か。去年のゴジラの映画がいけるならこれもいけそう。

 間違っても『インターステラー』が好きだからといって、見に行くものではない。あの映画の感じを期待していくと呆然とさせられるはず。今作はファンでも振り落とされる人が多数続出だろうし、次作がノーランのブランド力が維持できるかどうかの勝負作になる違いない。